「緑の回廊」秋号
2004年10月01日
コリドー現地検討会開催される!!
報告者
平野 辰典
去る5月21日(金)神奈川県自然環境保全センターの管理する丹沢県有林にて、現地検討会が開催されました。茨城署・東京神奈川署・伊豆署から森林官等の若手中心に、引率3名を含む20名の参加になりました。心配された天候も台風一過ですぐに晴れ、現地も台風の影響は少なく、活発な議論が行われました。
1.県営林の概要
神奈川県の県有林は11,345haと県の森林面積の約12%を占め、人工林34%天然林59%無立木地、沢等7%である。近年では、ブナ林の衰退等深刻な状況にある丹沢大山の自然環境の保全再生や、ニホンジカやツキノワグマ等の大型動物の越冬期の餌植物を確保する植生保護策の設置等、野生動物との共存を目指した森林づくり、木材資源の持続的な利用が可能な森林づくり、県産材の地元活用、レクリェーション活動等の利用ができるように設置した「県民の森」の整備、ボランティアによる森林づくりの推進等を中心に実施している。
2.県営林造林及び林産事業について
現地検討会では、保育間伐作業地と幅16m〜20m、長さ120mの帯状間伐の実施地を見学しながら、事業説明や林産事業の現状等を説明して頂きました。概略は以下のとおりです。
神奈川県愛甲郡の西端に位置し、その昔鎌倉時代には小田原城の用材として、徳川家康が江戸幕府を開いてからは、丹沢一帯の森林を御林と呼称し、重要な経済基盤になったようである。明治維新後は農商務省の管轄となり、明治22年からは御料地に編入されている。御料地時代の県有林は、ブナ、カシ、ミズナラ、シデ、カエデ類の広葉樹とモミ、ツガ、カヤ、スギ等の天然針葉樹が複雑に混生していた。施業の方法は、人工林地は輪伐期60年の皆伐作業とし、天然林のうちモミ、ツガ、スギ等の針葉樹が多い林分は伐採を一部にとどめ、長期にわたる漸伐作業による天然更新とし、ブナ、カエデ等の広葉樹が多い林分は、下木だけを燃料材として伐採する萌芽更新を行っている。しかし、天然更新の結果は良好とはいえず、後にスギ、ヒノキ、ホオノキ、ミズキや工芸用樹種を補植する中林作業を行うようになった。昭和9年からは、県直営で林産事業を開始し、モミ、ツガ、スギ等を木馬等で搬出している。また、造材端材、間伐材活用のための木炭ガス製材機を設置し、箱材を生産する簡易製材事業も開始している。戦時中は、比較的奥地にあった丹沢県有林では、乱伐に陥ることはなかったが、保育作業が行われず放置されたため、林相は著しく悪化していった。昭和30年代後半には、木材の売払い収入を財源とする県有林特別会計が、高度成長下の木材価格の高騰などを背景として、昭和40年代へと順調に推移した。昭和40年代に入ると経済成長にも落ち着きが見られ、自然保護思想の高まりもあったことから、大面積皆伐が難しくなり、風致施業地域の設定もあったことから、伐採量の減少により収入の確保が困難になったため、昭和47年度から一般会計となっている。現在は、県民と森林とのふれあい活動を推進するため、県民の森としての施設整備やボランティア50団体による保育作業を行っている。
Q : 択伐によるコスト増はどのように対処しているのか?
A : 現状では販売価格がとんとんか少々の赤字になってしまう。基本的には、事業費をかけて間伐事業の請負で森林整備を行う箇所を、立木処分で事業費をかけないで森林整備を行うという考え方でやっている。高齢級間伐等、事業全体で黒字になれば良いと考えている。
Q : 素材材積100m3の請負では、事業者がやりたがらないのでは?
A : 本県では森林整備を主体とする事業体が多い。しかし、近年では林産事業に取り組んでいる事業体が増えつつある。これは、素材生産の指名競争入札が近年造園事業の進出が増えている状況にあり、これと差別化するために受注しているのではないか。また、春先の森林整備事業の発注件数が少ないので、通年雇用者を抱える事業体は、この時期に作業をできる素材生産等の事業に魅力を感じているのではないか。
Q : 立木処分はどのくらいやっているのか?
A : 昨年度までは実施していたが、立木処分の場合、素材の殆どが県外に流出してしまうため、出荷先を指定できる規模の小さい素材生産事業のみとした。将来は、森林整備請負中心の地元の事業体が素材生産・販売のノウハウを身につけ、受託できるようになれば最高。立木を買い受けたいという事業体の要請が聞かれるまでは、職員の負担が大きいが、素材生産事業を中心に実施していきたい。
Q : 需要情報をよく収集しているみたいだが組織的な対応なのか?
A :現在の体制では、経験を積んだ業界に明るい職員でないと対応が難しい。民間の流域活性化センターを中心に需要情報を一括管理していく計画があるので、是非実現してほしい。だいたい3〜4年周期で異動してしまうので、誰が来ても対応できる流域を結ぶ県産木材供給センターの存在が不可欠である。
3.広葉樹苗木育成及び渓畔林造成事業の実施状況について
ここ数年、各県や国有林で広葉樹植栽が多く実施されているようですが、実際の現場実行段階で、遺伝子攪乱の防止等の生物多様性の保全や、広葉樹造林技術が確立している例は希であると感じます。国土保全というイメージだけで広葉樹植栽が行われている実態は多く、課題は多いと思います。その中においても、神奈川県では県内産の広葉樹苗木生産システムが稼働していることもあり、国有林においても学ぶべき点が多いと思います。概略は以下のとおりです。
(1)丹沢の渓畔林の状況
・地形が急峻
・関東大震災、昭和47年災による攪乱の影響が大きい。
・ほとんどがタマアジサイ・フサザクラ群集にまとめられる若い渓畔林が多い。また、シカの影響もあってかススキ原が多く、外の地域に比べ発達した渓畔林が少ない。
・世附国有林には比較的発達したシオジ・ハルニレ・オヒョウ等の発達した渓畔林がある(2)渓畔林再生の取り組み
治山ダムの施工箇所等、連続性を失っていた箇所を早く発達した渓畔林を復元することを目的とした。清川村宮ヶ瀬の塩水川において平成13年にシオジを攪乱の可能性がある下部は20本の巣植、上部は10本の巣植、対照の単木混交により植栽、支柱工を実施した。種子は同川の上流で採取し、各巣植区に深さ約30pの客土を使用した。
| 〜疑問箱〜
どうして巣植なの?・・・川の攪乱で流されてしまうのを防ぐ。また、お互いに競争させることで樹高成長を促す。広葉樹造林では植栽してからの初期段階をいかに早くクリアするかがポイント。
(3)樹高成長の状況
単木区を巣植区では植栽時の樹高に差があるので単純な比較はできないが、巣植区では標準偏差が大きく、成長に差が多くなり、巣植の中で2mを越えるものが多くなっている。
(4)遺伝子の多様性保全と水源林広葉樹苗木育成事業の取り組み
・生態系・種・遺伝子(種内)の3つの生物多様性の保全
人為的な攪乱は防止しなければならない。
・林業種苗法と広葉樹苗木
常緑樹は苗木を購入しようとすると、九州産のものが来たりする。同じ種であっても遺伝的多様性はあるので、植栽する流域から採取する等の考慮が必要である。
・水源林広葉樹苗木育成事業と県内産広葉樹の自給、県内の遺伝子の多様性と種子の採取
郷土の系統をもつ優良な種子から地域に適した広葉樹苗木の生産を行うことにより、生物の多様性にも配慮した森林づくりを行うことを目的としている。そして、県内産広葉樹種子の安定的確保のため、採取母樹選定、結実周期把握、保存技術の確立を行っている。また、系統の明らかな広葉樹苗木を安定的に確保していくために、発芽率、生長量、病虫害等の現状把握を行い、生産技術の向上を図るとともに、母樹からの種子採取を行っている。しかし、現状では適時に適量確保することが困難、価格が高い、苗木の系統が不明確等の問題点があげられる。課題としては、多量の苗木確保が必要であり、平成9〜28年
までの年平均需要見込量は約186,000本であるのに対し、平成9年度の県内生産量は30,000本となっている。また、主要樹種平均価格720円/本を620円/本のコスト削減を目指している。
Q : 柵の設置のみで森林再生できるのであれば、極相種のシオジを大規模に植栽するのはどうなのか?
A目的は、早く発達した渓畔林を再生させることであり、そのために植栽している。多様な森づくりメニューの一つとして考えている。また、上流の堂平から採種しているため遺伝的な攪乱もないと思われる。
Q : 下刈り等の保育管理はどのように行っているのか?
A : 元々石の河原で草の進入が少ないので、下刈りは行っていない。下刈りをすると有用木の実生も伐ってしまうので、やらないで済むのならやらないほうが良い。巣植区では、周囲の木につるが巻き付いても、その中の1本が成長すればいいという考えなので巣植全体を覆わない限り実施しない。
Q : 護岸工の中に植栽したことに抵抗がなかったか?
A : 渓畔林の機能の一つに、渓流を樹冠が多うと低温環境を維持できるとともに、昆虫等を水生生物への餌の供給を行うことがある。治山ダムの施工によって渓床勾配が緩和され、攪乱の可能性が少なくなったことから、流路からの高さを上げて護岸の中まで植栽を行った。樹種は流路に近い方はフサザクラ等の中高木、高い方は高木性の渓畔樹種を植栽している。護岸内の植栽については事業を実施した事務所の中でも議論があったようだ。
Q : 植栽木の生長はどうか?
A : 最初の樹高が違うので単純な比較はできないが、巣植区の方が標準偏差の差が大きい。
これは巣植の中で競争が起こっていて、大きいものでは、2mを越える個体が多くなってきている。
4.ニホンジカの保護管理事業の実施状況について
シカによる食害のため駆除しながら、生息環境も整える等の対策が試行錯誤の繰り返しで、どの対策が正解というものもなく、問題の難しさをとても感じました。私のいる茨城はシカ、ヒル、クマもいないし、山も緩やかで本当に林業適地だとつくづく感じました。しかし、山に入る度に足下のヒルを気にしなければいけないのには参りました。概略は以下のとおりです。
丹沢山地では、山麓から山頂域までシカが分布し、高標高域の鳥獣保護区を中心に高密度化している。推定生息頭数は2400〜4200頭となっている。シカ問題としては、自然植生の劣化、歯の摩滅の極端な進行や成長遅延等のシカの栄養状態の悪化が指摘されている。
自然植生の回復および被害防除としては植生保護柵を実施している。また、山麓部農地において農作物への食害が見れれ、被害は年間数百万〜千数百万円にのぼり、捕獲状況は年間400〜650頭になっているが、概ね1,500頭を下回らない生息密度へと導く個体数調整を実施している。シカは本来平野部を好む動物だが、現在は山地で生息しなければならない状況であり、複雑な因果関係のため、一方の対策が他方の問題発生原因になりえる。また、多様な人間活動が行われており、利害関係が複雑で、対策そのものが試行錯誤であるため保護管理が難しい。対策としては、モニタリングによる監視と多様な関係者による合意形成が必要であり、総合的には、自然植生の回復、生息環境整備、農林業被害の軽減、シカ個体群の維持などがあげられる。
Q : 堂平人工林の本来の植生は?
A : 基本的にはヤマボウシ、ブナ群落と考えられるが、シオジやサワグルミの群落もあったと思われる。
Q : シカの密度が30頭/km2以上というのは相当高い密度を思われるが、季節的にはいつの結果なのか?
A : 密度調査は冬に行っている。冬季には狩猟の影響から、鳥獣保護区に逃げ込む個体もいることが明らかになってきている。そうしたことを考えても最も高密度化している時期の数値といえる。山麓の農業被害との関連性を考えると夏の個体密度も把握する必要がある。
森林地帯での区画法による調査は見通しのきく冬にしか行えないので、夏の状態をどのように調査するかが課題。
Q : テンニンソウはシカに食べられないので繁茂しているのか?
A : 春先に一部食べるものの、主に採食時期が秋に多くなっている。地下茎に養分を蓄えた後の採食なので、群落の維持という点では影響が少ないと考えられるが個体サイズは小さくなっている。
Q : 1.8mの植生保護柵では飛び越えられないか?
A平地で助走のできる環境だと飛び越える可能性があるが、山間地では可能性が低いと思われる。
Q : 堂平の人工林は今後どのような林分を目指しているのか?
A : 長伐期施業を行っていき、将来的には広葉樹林にしていく予定。
Q : 戦後の大規模皆伐がシカ問題の元凶という一般的な認識があるが、実際はどうなのか?それが事実だとしたら、生息環境の整備はどのように行っていけば良いのか?
A : 現在県有林では皆伐は行っていない。戦後の拡大造林により、餌環境が良くなり、シカの増加・分布拡大したと一つは考えられるが、シカ問題は、その時代の社会情勢と対策が複雑に絡んだ因果関係により現在に至っていると考えられる。ただ、皆伐は餌条件を極端に良くしてしまい、シカの増加につながる可能性が高いと考えられるので、小面積皆伐等の施業により、モザイク状に行うことが望ましいと思われる。しかし、実際にはシカの対策と合わせて試行錯誤で行っていくしかない。
その森林施業良く考えてみて!
茨城森林管理署 笠間森林事務所
平野 辰典
ここ数年、地球温暖化防止対策の一環としてなのか、保育間伐等の予算がだいぶ多くなっているように感じる。保安林に至っては伐採率最大35%まで引き上げられ、40年生近くの林分を保育間伐をするという状況が多くなってきている。
また、近年では木材生産のみならず公益的機能に注目した施業が求められている。ここで問題になってくるのは、経験や知識の浅い若手国有林職員が森林官として、保育間伐や除伐等の保育管理を実施する判断をしているということである。また、40年生で保育間伐というのは、販売できるような林分もあるわけで、判断を間違えると大きな問題になりかねない。今日のように森林管理に携わる人数が減り、当面の業務に追われ、合理的な手法が多くなれば、現場を確認せず、画一的な方法で保育管理を実施することは多々ある。
間伐が必要な高密度な林分
本来であれば、経験者や有識者の意見を聞き、自分の足で山を確かめ、立地に応じた施業を行うべきであると考えるが、このような状況を嘆いているだけでは、何も改善されない。せめて、今国有林を預からせてもらっている森林官だけでも、志を高くもち、知恵を出し合い、明日の国有林について議論しながらよりよい森林施業を目指そう。そして、今までの経験を生かしながらも多様なニーズに応じた新しい森林施業にチャレンジしていき、現場第一線から発信していこう。